前回:ロングスリーパーと睡眠時無呼吸症候群
十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、昼間にひどい眠気に襲われる過眠症には「睡眠時無呼吸症候群」と「ナルコレプシー」とがあるとわかりました。
睡眠時無呼吸症候群はいびきなどで深い眠りができていない、ナルコレプシーは睡眠機能が壊れている、と解釈しましたが、どうやらナルコレプシーのほうがかなり発作的で、日常生活への悪影響が大きいように思えます。
今回は、ナルコレプシーの特徴について調べてみました。

ナルコレプシーの特徴(4大症状)
1.日中の眠気(睡眠発作)
十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、昼間にひどい眠気が襲ってきて、時間や場所にかかわらず、居眠りを1日に何回も繰り返してしまう…
この眠気はブラックホールに引きずりこまれるように強い場合があり「睡眠発作」と呼ばれます。
重度の場合は眠気により記憶や意識がなくなり、もうろうとした状態になります。
この睡眠発作は、運転中、食事中、会話中…など、通常では考えられないような状況でも起こります。
例えば、会議でのプレゼン中に寝てしまう、自転車をこいでいる最中に寝てしまう、入学試験中に寝てしまう…など、ありえないような場面でも眠ってしまう場合はナルコレプシーを疑ったほうがよいかもしれません。
睡眠発作で眠り込んだ後は通常30分以内には目が覚め、非常に爽快感があります。
しかし、しばらくするとまた眠気が襲ってきます。

2.脱力発作
正式には、情動脱力発作(カタプレキシー)といいます。
笑ったり怒ったり驚いたり…といった強い感情の動きがあったときに、首や膝の筋肉の力が抜けて、力が抜けて頭がぐらぐらしたり、ろれつが回らなくなったり、体の姿勢を保てなくなります。
全身の力が抜けて、ひどいときには倒れこんでしまいます。
この症状は、現時点ではナルコレプシーの最も重要な症状とされています。

3.睡眠麻痺
睡眠麻痺は金縛りとも呼ばれます。
寝入りばなや目が覚めたときに体に力が入らなくなり、意識ははっきりとあるのに体を動かすことができなくなります。
正常な人でも起こることがありますが、ナルコレプシーではその頻度や程度が強く現れやすいと言われています。

4.寝入りばなの幻覚
入眠時幻覚といいます。
寝入りばなからレム睡眠となって夢(怖い夢)を見てしまうことが多く、金縛りが起こるのと似たような状況で、非常に生々しく、時には恐ろしい内容の幻覚を見ます。
場合によっては現実との区別が難しく、幻覚と判断され、統合失調症と間違われてしまう場合もあります。


1~4をナルコレプシーの4大症状といいますが、最も重要な症状は1と2で、この両方がそろっている場合には、ナルコレプシーと診断されます。
ナルコレプシー患者は日中に眠いだけなく、夜の睡眠の質も悪いことが多いです。
睡眠ポリグラフ検査を行なうと、何度も眼を覚まし、睡眠が分断されているのが分かる場合があります。
また、眠ってしまったことを覚えておらず、自分の行動が後から思い出せない「自動症」という現象が見られる場合もあります。
ナルコレプシーは通常10代半ば頃に発症することが多く、日本人の0.16~0.18%がこの病気にかかっていると言われています。
1000人に1〜2人と、とても少ないので、周りになかなか理解してもらえないと思われます。

ナルコレプシーの原因
最近の研究で、ナルコレプシー患者では脳内の視床下部という部分の「オレキシン神経細胞」の機能が著しく低下していることが分かってきました。
脳の中にあるヒポクレチン(オレキシン)を作り出す神経細胞(ヒポクレチン・ニューロンまたはオレキシン・ニューロン)が働かなくなることによって起こります。
また、情動性脱力発作を伴うナルコレプシー患者から脳脊髄液を取って調べると、オレキシン細胞の作っている物質である「オレキシンA」が大変少なくなっていることがわかりました。
しかしオレキシン神経細胞の機能が低下する原因については、現在も不明です。
インフルエンザや風邪などの感染症が自己免疫過程に影響することにより、数か月後に急にナルコレプシーの症状が出る可能性もあります。
感染がきっかけとなって、オレキシンを作る神経細胞が感染源と間違って攻撃され、オレキシンを作れなくなる、という仮説も提唱されています。
また、頭部外傷が引き金となることもある可能性も。
一卵性双生児の場合、どちらか一方がナルコレプシーになっていると、もう一方もナルコレプシーになることもあるなど、遺伝的要因もあるといわれています。

治療法
根本的な治療法はまだありませんが、症状を抑えて改善することは可能です。
治療には、薬物療法・生活指導の2つの柱があります。

薬物療法
「眠気・睡眠発作に対して」「脱力発作に対して」「夜間の熟眠障害に対して」、それぞれに分けて薬での治療を行います。

1.眠気・睡眠発作に対して
精神賦活薬、中枢神経刺激薬といわれる薬剤を処方。
メチルフェニデート(リタリン)やベタナミン(ペモリン)という薬物が用いられます。
2007年4月からは、モダフィニル(モディオダール)という薬剤依存性・副作用の少ない薬剤が認可されました。

2.情動性脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚に対して
クロミプラミン(アナフラニール)・イミプラミン(トフラニール)という、うつ病の薬(抗うつ薬)が有効です。

3.夜間の熟眠障害に対して
昼間に眠ってしまうために夜眠れなくなる場合には、睡眠導入剤を処方する場合があります。

生活指導
規則正しい睡眠・覚醒の習慣
生活習慣を見直し、睡眠記録表に24時間の睡眠・覚醒状況を記録し、医師のアドバイスに従って規則正しい生活を心がけます。
可能な限り、毎日同じ時間に眠り、同じ時間に起きるようにするのが大切です。

決まった時間に昼寝をする
毎日決まった時間に短時間の昼寝をし、車の運転や料理などは、眠くならない時間帯に注意して行うようにします。
ナルコレプシーは長期の治療となることがあるため、根気よく付き合っていく必要があります。
